こんにちはGoroです。先日会社の同僚からグランドセイコーのヴィンテージモデルを見せて貰いました。現行モデルには無いミニマルなサイズ感、しかし随所に見られるグランドセイコーのDNA、愛好家にとって何とも素晴らしいタイムピースです。しかしこの製品は単なるヴィンテージではありません。どんなモデルか、詳しく紹介します。

 

グランドセイコー機械式復活への情熱

 

SBGR001 1998年製造、シンプルイズビューティフルを体現した無駄の無いモデル

 

さて、写真のヴィンテージモデル、SBGR001/9S55-0010は1998年に発売された廃盤(ディスコン)モデルです。実は1998年こそグランドセイコーが機械式ムーブメント搭載を復活させた、アニバーサリーイヤーでもあります。グランドセイコー公式HPの記述によると、91年にセイコーはUTD(Urtra Thinn Dress)という手巻き式ムーブメントを搭載した、限定ドレスウォッチを発売し好評を得ていました。海の向こう側ではスイス時計の機械式時計復活の狼煙が日増しに高まっていた時期でもありました。

 

グランドセイコー、機械式ムーブメントのDNAを後世へ

 

SBGJ267、筆者にて撮影、工房がある盛岡から見える岩手山をイメージしたダイアルが美しい

 

現行のグランドセイコーは皆さん既知の通りです。2017年にブランドが独立宣言して以降はグローバルブランドとして、積極的に世界展開しています。筆者の過去記事でも書いていますが、今や彼らはスイスブランドを凌駕するほどの時計ブランドです。

 

そんなグランドセイコーを絶賛する人たちの多くは、美しく優れた精度を持つ機械式ムーブメントに惹かれていると思われます。現在も愛好家と言われる人たちがこよなく愛する時計は機械式時計が大半です。筆者のような50代(2024年現在)の青年期の1970年代から80年代にかけて、大多数の人たちは時間がほとんど狂わないクォーツ時計感激していました。確かにクォーツ時計の精度の秀逸さに疑いの余地はありません。

 

全世界でそんな状況でしたので、誰もが機械式時計は時代の流れの中で淘汰されると思われていたのです。実際スイスブランドの多くも機械式ムーブメントの製造を中止するブランドも多くあったのです。セイコーもそれと同じで1970年代を最後に機械式時計の製造を中止するクォーツ・ショックが時計界を覆い尽くしていました。しかし、一度製造を止めるとそれまでに蓄積された製造ノウハウは一瞬にして消えてしまいます。

 

機械式時計復活の機運が盛り上がっても現在2024年のようなクォーツと機械式時計の棲み分けができる世界が来るとは誰も想像できていません。そのため経営陣も思い切った判断ができなかったのでしょう。また当時のセイコー社内の人員配置は、クォーツ時計関連が人員の大半を占める状況でした。そのためいざ機械式ムーブメント復活させるにも設計者を割り振る雰囲気では無かったようです。

 

さらに社内に設計図はあるもの全て手書き、CAD(コンピュータ支援設計)にそれらを落とし込み、更にノウハウはOBを呼び戻し、現役社員に還元する地道な作業を繰り返したそうです。しかし失われた年月は痛手だったと想像できます。復活の機運が出たのが前述したセイコーの資料によれば91年、92年頃からで、実際に機械式グランドセイコーとして、発売できたのは98年でした。

 

かねてから機械式時計の製造に携わってた人たち、機械式時計をこよなく愛する人たち、彼らの小さくても熱い魂が、機械式時計を復活させ、そのDNAを後世へ伝えたいと願っていたから、今日こうして機会式ムーブメントのグランドセイコーが隆盛を誇っているのです。

それが実ったのが1998年のこのモデルになります。このモデルはそんな想いがぎっしりと詰まっている製品なのです。

 

時を超えた精巧さ:グランドセイコーSBGR001の美と機能の融合

 

SBGR001に搭載されたムーブメントは当時の機械式ムーブメントにおいて当時国内最高の精度を誇ったものと言っても過言ではありません。しかし内部も去る事ながら筆者は、この外観のデザインの良さにも惹かれました。

現行モデルの秒針に多く採用されている、「ブルースティール」も無く色は全て黒とシルバーというシンプルさです。公式HPにも記載されているように究極の研磨技術の仕上げが施されているため、小ぶりなケースでありながら、筋肉質な質感になります。

これは何よりも実用性を最優先にしたためでしょう。しかし、機能美を損ねていない事は流石です。

 

究極のクラフトマンシップ:グランドセイコーSBGR001の製造過程に迫る

 

 

最後にこのモデルの製造過程に触れておかねばなりません。

 

苦難を乗り越えて機械式時計の復活が1992年に薄型機械式時計U.T.Dという創業110年記念モデルの発売にこぎつけました。そして次はグランドセイコー用のムーブメントという流れになったそうです。当時の開発チームの社内リソースの提供は限定されていました。社内リソース以外にも当時のセイコー開発チームには機械式ムーブメント開発の空白期間があった事で、それに関する全ての開発ノウハウが失われていました。そのため、まず新型ムーブメントは諦め、1970年代にあったムーブメントをグランドセイコー用として改造したのです。

 

グランドセイコーには独自のクロノメーター規格というのが存在します。その規格をクリアできる精度の高いムーブメントがない事には、グランドセイコーと名付ける事ができません。

 

しかも当時のセイコーはクォーツムーブメントがあったため、それに合わせる規格日差−4から+6秒というスイスクロノメーター規格よりも厳しい数値でした。この時は社内の最新鋭のシステムを活用したそうです。2次元CADを進化させたセイコーの自社製3DーCADを活用して、スピーディーなシミュレーションを実施して自社規格の精度をクリアしました。社内には敵もあれば味方も居ます。

 

物造りには様々な苦難が発生します。しかしこのSBGR001はクォーツ時計の量産化に成功したセイコーが発表したグランドセイコーの機械式時計復活モデルとして人々の脳裏に刻まれるモデルです。

 

最後にこのモデルを見せてくれた同僚のFさん、ありがとうございました。末長くこの時計を使ってください。

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