こんにちはGoroです。2022年12月に発表されたグランドセイコーの値上げは年明け23日に実施されました。この値上げによってグランドセイコーの割安感は消えて、文字通り世界標準になった感じがします。しかし消費者目線では値上げは良いニュースとは言えません。今回の値上げの背景や影響を考察してみます。

止まらないアメリカ市場の成長による値上げ

一般的にグランドセイコーが最も人気ある市場はアメリカを含む北米地域です。これまでアメリカの時計市場では安い製品が好まれてきて、スイス製の高級機械式時計よりクォーツ製の安価な時計がより好まれるのが特徴でした。しかしコロナ禍の頃よりアメリカ人の時計嗜好に変化が生じました。世界的な「金余り」もあったかも知れませんが、物凄い勢いでスイスから高額な時計が輸出されるようになったのです。

 

そして、この数年間コロナ禍においてスイスから輸出される時計の数量・輸出額はそれまで首位の座に居た中国を逆転して、2022年のスイスの輸出高ではアメリカが世界全体の20%を占めるほどまでに急伸しています。今やアメリカ市場は全ての時計ブランドにとって「黄金郷」です。その中でもグランドセイコーは全生産数の半分近くがアメリカ向けとまで言われています。

 

値上げの理由は間違い無く円安とメインである北米市場での「スイス時計との価格差を縮める」機会と考えても不思議ではありません。筆者は以前アメリカのYouTuberが「グランドセイコーはロレックスより遥かに質が良い!」と言う動画を見た事があります価格も日本円換算で20万円以上開きがあって質も「変わらない」もしくは、「それ以上」だったらどちらを選ぶか?通常は間違いなく安い方を選ぶはずです。

 

しかし、安くて人気が高いならビジネスの世界では値上げは必要になります。またアメリカ人は伝統的なブランドイメージより、実用性を優先して選ぶ傾向があります。スイスブランドよりネームバリューは無くても実用性が高くコスパが良ければ彼らは臆すること無く、グランドセイコーを手に取るのです。

 

匠の技を屈指した文字盤!

 

かつてグランドセイコーは、細かい部分でスイスブランドより劣る部分があった事は事実です。あるスイスブランドの店員さんも、グランドセイコーよにはデザイン面で、絶対負けないと言っていました。しかし「2017年のグランドセイコーの独立」以降は劇的にデザインが向上しました。筆者は特に「二十四節気」をテーマにしたコレクションが好きで、グランドセイコーがこれまで挑戦してこなかった、工芸品の分野へ製品の方向を導く、野心的な試みです。

 

個人的な意見としては「時計全体の細部のデザイン」に関しては未だスイスブランドを凌駕したとは言えません。具体例を挙げれば英国の著名YouTuberは「カレンダーの日付フォントに難がある」とも指摘しています。しかし定評のある優れたムーブメントはさらに研ぎ澄まされ、外観に関してはダイアルの美しさと質を大幅に向上させました。

 

特に前述した「二十四節気」をテーマに文字盤へ「水面(みなも)」や「白樺」、「御神渡り」などという、「自然の描写」を量産できる工程で表現させた事は、評価できます。スイス製時計でも優れた文字盤の物はありますが、大半は高価なハンドクラフト(手作業)です。量産レベルで芸術的な製品が入手できるならそれに越したことはありません。筆者もグランドセイコーに最近惹かれてきたのは、工業製品を超え限りなく「匠の技」を凝縮した彼らのしかできない文字盤を作成したからなのです。

 

日本の多くの愛好家は特に文字盤に魅せられたことが大きな理由だと思います。それはいつしか海外のファンへも魅了していき、ここ数年のグランドセイコー・ブレイクにつながったと考えられます。しかし、筆者はグランドセイコーの現時点での気掛かりはその「彼らの卓越し過ぎた匠の技」そのものが、彼らを真のラグジュアリーブランドへ昇華する障壁では無いかと考えるようになったのです。

 

「過剰品質」からの脱却

 

優れた製品づくりで、経済成長を遂げてきた日本の製造業では、高品質を探求し続けることが

しかしあまりにも高品質過ぎるのも考えものです。実際日本で生産される工業製品は、世界中の製品と比べるとあまりにも品質だけを求め過ぎて、「本質を忘れている」ものが多くなっている気がします。

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よく話題にされるのが、国産車と輸入車との比較です。筆者は2000年初頭にフォルクスワーゲンのゴルフ(VW-GOLF)を愛用していたことがありました。一般的に言われる「国産車は故障が少なく、輸入車は故障が多く維持費が掛かる」、まさにその通りでした。

 

しかし車本来の走行性能では輸入車が国産車を圧倒します。VW-GOLFでの高速運転は心地よく安定していて走りを堪能できます。これは時計でも同じです。精度に優れて壊れないムーブメントは一見すると良いものに違いありません。しかし冷静に考えればそんなに精度は良くなくても不自由なことは無いのです。

 

近年スイスブランドの多くは精度探求より、振動数を落として部品の耐久性を高めるブランドが増加しています。またこれによりオーバーホールの推奨期間も2〜3年だったものを5年から10年まで延長しています。また一般的に振動数を落とすと、パワーリザーブも長くなるため、「ロングパワーリザーブ派」である筆者もグランドセイコーの製品にはハイビートに拘らず、振動数を落として欲しいと思うひとりです。

 

かつて国産車が採用した手法をスイスブランドが採用し、グランドセイコーが採用しているのは輸入車(欧州車)のそれという事が笑えます。

 

グランドセイコーのブランドとしての展望は?ファクトリーでは無くメゾンを目指せ!

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今回の値上げによって、過剰品質はある程度解消されたはずです。とは言え、グランドセイコーに向けられる目は当然厳しくなります。それに応えるため、これまで以上のレベルの仕上げ、卓越したデザインが必要です。また闇雲に高品質を探求して「過剰品質」になる事無く、時計の本質を見失わない哲学が求められます。筆者は「グランドセイコー購入は今がチャンス」で書いたように今回の値上げは「妥当」と考えています。

 

問題は今後のアメリカ市場の先行きです。専門家の予想ではアメリカの時計市場は現在は「バブル状態」、あまりにも膨らみ過ぎて異常な状態との意見が多数を占めています。

 

そしてアメリカの時計市場のバブルが弾けた時どうなるのか気になるところですが、これも筆者はあまり心配はしていません。仮にアメリカのマーケットのバブルが弾けたら他の国へ製品は流れると思います。それよりもグランドセイコーとしての今後の「ブランディング」が重要です。あくまでも機械式腕時計は「ラグジュアリー」、イメージ戦略がグランドセイコーの発展を左右すると考えています。

 

技術力はもう世界水準に達しているのでそちらの方へ注力して欲しいですね。そう、ファクトリーではなくメゾンを目指してください。

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