こんにちはGoroです。腕時計に興味を持つと、「マニュファクチュール」という言葉を間違いなく耳にすると思います。腕時計ビギナーの方はなんとなく「高級」、「凄い」腕時計のイメージを持つでしょう。今日は「マニュファクチュール」の時計は何が凄いのか、詳しく紹介していきます。
マニュファクチュールは時計製造の内製化!
マニュファクチュールは端的に言えば時計製造の内製化です。近年のスイス腕時計産業はこのマニュファクチュールの強化がトレンドになっています。ただマニュファクチュールには第三者機関や公的機関による認証はありません。それゆえにマニュファクチュールの言葉の解釈には相違があります。
しかし、一般的にマニュファクチュールは、自社ムーブメントを自社で製造(内製化)していれば、そう呼ぶのが時計界の通例です。スイス腕時計の生産は前回の記事にも書きましたが、伝統的に分業制でした。それが1983年にスウォッチ・グループが創設されて以降、彼らはこれまでの分業制だった部品会社をグループ傘下において製造するという、自動車産業の手法を導入したのです。
当時のスウォッチ・グループの総帥であったニコラスGハイエックは、かつてメルセデスのコンパクトカー「スマート」にも関わった事があるため、自動車産業の手法を模倣したのかも知れません。前回の記事で記述したようにスウォッチ・グループはグループ内の子会社化によってコストを削減、機械式時計でも手に届く価格帯で製造・販売するという「製造業の常識」を時計界に導入した事でクォーツショックからグループを復興させました。
スウォッチ・グループの手法はサプライヤーをコングロマリットとして統合する「内製化」のため、「マニュファクチュール」と同じに感じる人も居るかもしれません。ただ時計界ではスウォッチ・グループの手法はマニュファクチュールとは通常呼びません。しかし、筆者は広義な意味でスウォッチグループはマニュファクチュールだと思います。
マニュファクチュールは高品質!
マニュファクチュールによる最大のメリットは腕時計の高品質化です。自社でムーブメントを製造する事で、全ての製造工程を自社のコントロールに置き、品質管理できるためブランドの目が行き届きやすくなります。ETAのようなムーブメント専門会社が製造するムーブメントは、どうしてもさまざまなブランドの製品に適合するようにデザイン(設計)されており、自社の都合を全て反映させるのは難しいものです。
当然品質もブランドにより求めるレベルが違うため結果として「中間的な着地点」に留めています。より高級路線で行くブランドは、品質アップによる高級化のためマニュファクチュール化を進めた方が良いのは当然と言えるでしょう。
マニュファクチュールの方が、販売価格は高い!
前述したようにマニュファクチュールはメリットとして高品質化できる反面、デメリットとしては高コストとなり販売価格は上昇します。筆者の体験でもIWCのパイロットウォッマークXX (20)が自社ムーブメントを搭載した事で値上げとなりました。
しかしそれに伴い実用性もアップ(パワーリザーブと防水性)した事で、お得感のある値上げと感じました。IWCだけに限らず他のブランドでも自社ムーブメントを搭載している製品は、価格がアップしている筈です。
マニュファクチュール化は今まで以上に進む?
最後にブランド目線で見た場合、これからますますマニュファクチュール化は進むと予測されます。理由は製造工程の効率化を図ることができるからです。ブランドのトップが決断を下してから現場へ反映させるスピードは20世紀の頃より格段に速くなっています。例を挙げると、緑の文字盤が流行した時、僅か1年ほどの間でほとんどのブランドで緑ダイアルが採用されました。どのブランドも即座に変化に対応できたのは、チームで垂直的にビジネスを進めた事がまず挙げられます。
しかし、もう一つの理由は各ブランドのマニュファクチュール化によって製造現場への反映が容易になった事も理由の一つでしょう。「この時計が売れる」とマーケティング担当者が分析し、ボード(取締役会)のメンバーが製造現場へ反映させるまでのリードタイムを早くしないとあそこまで速く緑のダイアルは普及しません。
さらに時計ブランドは、近年マニュファクチュール化と並行してグループ内のサプライヤーの結束を強めています。
ニコラスGハイエックが導入したスウォッチの手法は、21世紀の現代、更にアップグレードされ、それが時計業界の「マニュファクチュール化」を促進したのかも知れません。
自社ムーブメントである「マニュファクチュール」と併せて、スウォッチグループのようなグループ傘下の部品製造会社の関係性にもぜひ注目してみてください。